映画『バーニング 劇場版』感想 【何度見てもわからない、でもずーっと惹きつけられる】

バーニング 劇場版:作品情報 – 映画.com

『バーニング 劇場版』の感想を書きます。

この映画は、2018年、バンクーバー国際映画祭で初めて観た。

村上春樹の『納屋を焼く』が原作とレビューを読み興味をもった。但し小説の内容は全く覚えていなかった。

韓国映画は全く初めてで、監督や俳優、撮られた背景など、何の予備知識もなく観た。

そしてこれまで観たどの映画でも経験したことがない程、心が揺さぶられ、この映画に取り憑かれてしまった。

概 要

作品:2018年公開の韓国映画

監督:イ・チャンドン監督の第6作目の作品

受賞:カンヌ国際映画祭ー国際映画批評家連盟賞

   ロサンゼルス映画批評家協会賞ー外国映画賞

登場人物

登場人物はほぼ3人だけです。( )は俳優名

ジョンス(ユ・アイン)

大学を卒業したが定職には就かず、配達のアルバイトをしている。小説家を目指しているが、まだ小説は書いてはいない。

ヘミ(チョン・ギョンソ)

ジョンスの幼なじみと名乗るちょっと不思議な女の子。

ベン(スティーヴン・ユァン)

ヘミがアフリカ旅行で知り合った謎の男。ソウル市の高級住宅地のコンドミニアムに住んでいる。何で生計を立てているのかわからない。

あらすじ

ジョンスはある日、配達のバイト中に、偶然幼なじみのヘミに声を掛けられる。

ジョンスは、ヘミからアフリカ旅行に行くので、その間、飼っているネコの世話を頼まれる。旅行から帰った時、ヘミはナイロビ空港で出会った謎の男、ベンと一緒だった。

ある日、ヘミはベンと一緒にジョンスの実家(北朝鮮との国境近くの村)に来る。

その日、ベンはジョンスに「私は約2ヶ月に1回、ビニールハウスを焼いています」と謎の告白をする。

その日を境にヘミの行方がわからなくなる。

ジョンスは、ヘミの行方とベンが焼いたと言うビニールハウスを取り憑かれたように探し続けるのだが、、、。

ストリーの詳細と感想 

*ここからネタバレありです。

初めてこの映画を見終えた時、私は満席の映画館の椅子で、ぼぉっと半ぼ放心していたような気がする。

良くわからない映画だった、、、でも、あのようなラストになるとは、、、。

激しい雪が軽トラックの汚れたフロントガラスに斜めに降りそそぎ、裸のジョンスが運転する運転席の後ろの窓ガラスから、ポルシェが燃え上がる炎が見える、、音楽は、彼がベンのポルシェを尾行していた時の、追い詰められるような打楽器の音、、。

私には「主人公の役の男の子(と言うと語弊があるが)、よくこの役をやり切ったなぁ」と映画の感想とは全く的外れな思いが湧いていた。韓国映画は初めてで、俳優の名前も全然知らなかったので、ジョンスを演じたのは、俳優ではなく、普通(素人)の人だと思ったのだ。

2時間半ほとんど出ずっぱり、でもセリフは極端に少ない。どこにでもいそうな現代の若者。何も持たず、社会とうまく折り合いをつけることもできず、心の中にいろいろな思いや鬱屈した感情を持ちながら、それを表現することもできない、そんな若者。

ほとんど喋らず、感情表現もしないのに、彼の中に湧き上がる思い、喜び、苦痛、渇望、嫉妬、葛藤、怒り、、がひしひしと伝わった。

私はこの映画が心から離れなくなった、、。

バーニングに狂う

その後、ネットでこの映画の情報を追った。

監督のイ・チャンドン氏は、脚本家、小説家、映画プロジューサーでもある。寡作の映画監督で、これが8年ぶり、6本目の監督作品。撮った映画は全て話題、問題作で、世界の名匠として知られている。

この映画は、NHKの ”アジアの映画監督が村上春樹の短編小説を映像化するプロジェクト” として進められた。脚本は、監督が大学で映画を教えていた時の生徒で、監督と師弟関係にあるオ・ジョンミ氏との共同脚本。映画化に際して村上春樹の『納屋を焼く』を監督に勧めたのも彼女だったそうである。

そして、ジョンスを演じたのは、ユ・アインという若くて実力のある俳優だと知った。普通に考えると素人が演じられるわけがないのだが、あまりにリアルで演技と思えなかったのだ。(カンヌ映画祭に出席した時のユ・アインさんの髪型、ファッション、雰囲気は超クール!とてもジョンスと同一人物とは思えなかったです。笑)。

良くわからない、でもモヤモヤとずっと心から離れない、、。

その後、上映情報を見つけては通い、映画館で7回(バンクーバーで5回、日本で2回)観て、もちろん発売と同時にビデオも購入した。

なぜこの映画にこれほど魅入られたのか?ストリーを追いながら探っていきたいと思う。

ジョンスとヘミの出会い

最初の出会いの場面から、謎のセリフと布石だらけある。

– 整形手術したの?可愛くなったでしょう?(本当にヘミなの?)

女物のピンクの時計。クジの景品でジョンスが当てヘミにあげる。

– パントマイムでみかんを食べるヘミ。「みかんがあると思うのではなく、ないことを忘れる。そうすれば、いつでも美味しいみかんが食べられる」

-アフリカには、リトルハンガー(文字通り食べ物に飢えている人)とグレートハンガー(生きる意味に飢えてい人)がいる。ヘミは、グレートハンガーに会いにアフリカに行く

アフリカに行く前に、ジョンスがヘミの部屋を訪れる。

ソウル市にある北向の小さなアパート。1日に1回だけ、ソウルタワーの窓に反射する光が入る瞬間がある。ボイル、という名のネコは姿を現さない。ここで二人はセックスをして、その時、部屋に一瞬、反射した光が射すのをジョンスは見る。

ジョンスの境遇

父親は暴力事件を起こし裁判中。母親は幼い頃家を出て行った。

ジョンスは、誰も住んでいない北朝鮮との国境近い実家の村、パジュに戻る。(その田舎の景色が、日本と田舎の景色とほぼ同じで、とても驚いた。)

物が乱雑に溢れて、テレビだけが異常に大きいさびれた実家。雌牛が1頭だけいる。

軽トラックがあり、倉庫にはナイフのセットがある。

夕方には北朝鮮からの対南放送のスピーカー音が聞こえてくる。

ジョンスが小説を書いている気配はない。

時々、夜中に無言電話がかかる。

時々ヘミのアパートに行き、ネコに餌と水を与える。トイレに形跡があるが、ネコは一度も姿を現さない。

ベンの登場

帰国するヘミを空港に迎えに行くと、ナイロビ空港で知り合ったベンという男と一緒だった。(ジョンスにとっては、想定外の展開だったはず)。

三人は空港から、ジョンスの軽トラックで韓国料理店に行く。

道中、母親に電話をするベン。その会話からベンが上級社会に属していることが窺える。車内は微妙な雰囲気。(ベン役のスティーブ・ユァンさんの話し方や雰囲気の出し方がめっちゃ上手、またジョンスのユ・アインさんの表情も絶妙で、今後の二人の関係が暗示されているような場面。)

韓国料理店での会話

ヘミはアフリカでサンセットツアーの参加した様子を話す。夕陽が沈み切って真っ暗になった時、訳もなく涙が溢れた。

「世界の終わりにいるに違いない、私はそう思った。私も夕日のように消えてしまいたい」

「死ぬのは怖すぎる、でも最初からいなかったように消え去りたい」と言ってまだ涙を流す。

ベンはそんな様子を見て「人が泣いているのを見るのは魅惑的ですね」と笑う。「私は涙を流したことがないので、本当に悲しと感じたことがあるかどうかわかりません」と変わったことを言う。

ジョンスが「仕事は?」と尋ねると「遊んでいるんですよ」と答えるベン。

支払いはベンが済ます。「空港からついてくるのが大変でした」なんてベンに話している声が聞こえる。店を出るとポルシェが止まっていて、ベンの車だった。

ジョンスは、思わず物怖ものおじして、ヘミにベンに送ってもらうようにうながしてしまう。

家に戻るとまた無言電話がかかる。

ベンの境遇

ある日、ジョンスはヘミからの誘いで、ソウルのオシャレなカフェに行った。待っていたヘミを見て喜ぶジョンスだったが、そこにはベンもいた。二人はジョンスの前でイチャイチャする。いたたまれない様子のジョンス、、。

パスタをご馳走すると言うベンに誘われて、ジョンスたちはベンのコンドミニアムに行く。

高級住宅地にあるオシャレなコンド。

ここで『メタファ』と言う単語がベンから発せられる。

ジョンスはトイレを借りる。戸棚を開けると化粧セットと女性用のアクセサリーがある。

食事の後、ヘミとジョンスはベランダでタバコを吸っている。

「ベンは何才?何をしたらこんな生活ができる?高級なコンドに住んで、ポルシェに乗って、音楽を聴きながらパスタを作る、、韓国にはギャッツビーが多すぎる、若くて金持ちで、でも何をしているのかわからない人たち、、」とジョンスは言う。

3人はクラブに行く。そこにはベンの取り巻きの今風の若者がたくさんいる。

ヘミは彼らにアフリカのダンスの話をする。”踊ってよ”と言われて、グレイトハンガーのダンスを披露するヘミ。ハラハラして見守るジョンス。振り返るとあくびをしていたベンと目が合う。(ベンのあくびは映画の後半で再度出てくる。ベンの怪しさが徐々にあらわれる)。ジョンスはただただ居心地が悪い。

ジョンスとは正反対に見えるベン。お金持ちで、高級コンドに住み、高級車に乗り、洗練され、取り巻きの若者たちがたくさんいる。恵まれている、ように見える、しかし退屈して空虚であるようにも見える

ジョンスの実家に来る二人

ある日、ヘミとベンは、ベンのポルシェでジョンスの田舎の家に突然来る。

このシーンが、この映画のハイライトだと思います。

ヘミの家はもうない。ヘミは「子供の時に井戸に落ちたのをジョンスが助けてくれた」と話すが、ジョンスは覚えていない。(本当のことなのか?)

家の前に、椅子とテーブルをおいて、ワインを飲み大麻を吸いながら 「いい感じ。人生で最高の日」と言うヘミ。

マイルズ・デイビスの『死刑台のエレベーター』を車から流すベン。

ヘミは、上半身裸になり、夕陽の方に体を向け、グレイトハンガーの舞を舞い始める。夕暮れの光にヘミのシルエットが浮かぶ。長くて細い腕を上げ、鳥が舞うように舞うシルエット、、、息をのむ美しさ!これは映画館の大きなスクリーンで見ていただきたいです。

ヘミは泣きながら踊り終える。

メラは暮れ行く田舎の風景をゆっくりと映す、風の音、鳥の泣き声、遠くにともる町の灯、風にそよぐ木々の音、、全く普通の風景なのにその映像の美しいこと

ヘミは眠ってしまったようで、ベンとジョンスが彼女を抱きかかえて家に入れる。イッヒィヒィ、、と不気味に笑うベン。

外はほとんど暮れかけているが、まだ薄っすらと光が残っている。

私は父を憎んでいる」突然告白を始めるジョンス。「父は暴力性を秘めていて、それが爆弾のように爆発する。一旦爆発すると何もかも壊してしまう。母はその為、姉と私を置いて家を出て行った。母が出て行った日、私は母の服をすべて燃やした。父が外の畑で火を焚いて、私の手で母の服を燃やさせた。未だにその夜ことを夢で見ます」と。(2時半ほとんど出ずっぱりのジョンスが、ただ1ケ所、長く話すのがこの場面です。)

時々、私はビニールハウスを焼きます」とベンが突然言う、ジョンスの話は無視して。「えっ?」と驚くジョンスに、同じことを言うベン。

ビニールハウスを燃やすのが趣味なんです。見捨てられたビニールハウスを選んで燃やす、約2ヶ月に一度、これがベストのペースだと思う。とても簡単、マッチを擦って投げ入れるだけ、10分もしないうちに燃えつきる、元々、存在していなかったように。

もちろんこれは犯罪です、今ここでマリファナを吸ったように。捕まりませんよ、警察はこんなことに関心がない。韓国には数えきれないビニースハウスがある、役に立たず、不潔で見た目の悪いビニールハウスが。それらは私に燃やされるのを待っているかのよう。私はそれらが燃え尽きる時、強い喜びを感じる。ここにベースサウンドを感じる。(右手を左肩の下に置き)ベースが骨に響きます」

「役に立たないビニールハウスかどうかジャッジ(判断)するんですか?」と聞くジョンス。

「私は何もジャッジしない。受け入れるだけ。彼らが焼かれるのを待っていることを受け入れる。雨のようなものです。雨が降る、川が氾濫する、洪水が起き人々が流される。川がジャンジしますか?正しいもまちがいもない、ただ自然のモラルです。自然のモラルとは、同時存在。私はここにいる、同時にそこにもいる。パジョにいる、バンポにもいる(パジョとバンポは韓国の地名)。ソウルにいる、アフリカにもいる。そう言うこと、こう言うバランス。」

「最後に燃やしたのは?」とジョンス。

「アフリカに行くちょうど前だったので約2ヶ月前、そろそろ次を燃やす時期です」

「次は決めているんですか?」

「候補があります。良い物件です。燃やすとすごく楽しいと思う。今日ここにきたのも偵察のためだったんです。この近く、すごく近く、すごくすごく近い、、

「私はヘミに恋している」と突然言うジョンス。

フフフ、、と笑い、マリファナを吸いながら無視するベン。

「おい、ヘミを愛しているって言ってるんだよ!」と初めて感情をあらわにする。

前を向いたまた、フフフ、、、と無視してとりあわないベン。

ドアが開き、目覚めて服を着たヘミが戻ってくる。

家の前の木を見ながら「この木、大きくなったわね」とジョンスに話しかける。

「なぜ男の前で簡単に服を脱ぐんだ。娼婦がすることだろう」と言ってしまうジョンス。(これは言ってはいけない言葉なんだけど、人は、心配のあまりひどいことを言ったりすることがありますね、そして後で激しく後悔することになる、、。これがジョンスがヘミに言った最後の言葉になった。)

ヘミは無視してベンの車に乗り込む。

翌朝、ジョンスは、ベンのライターが忘れらているのを見つける。


この場面のセリフをほとんど書いてしまいました。ビデオが英語字幕で、英語からの私の訳なので、日本語の字幕とは違っていると思います。ご了承ください。

ベンの怪しさ爆発のシーンで、告白が意味不明ですが、とても興味深いです。

全てが、メタファーなのか?

ジョンスは、自分の心情を吐露するが、ベンは反応しない、意味不明に笑うだけ、、。

”涙を流したことがないから悲しいと思ったことがあるかどうか分からない”と言うベンだから、感情や共感はないのか?

ジョンスの怒りがだんだんと蓄積されていく感じも見て取れます。

3人の俳優がそれぞれ素晴らしく、また映像も本当に美しい場面です。

ヘミの失踪、ビニールハウスは焼かれたか

この日を境に、ジョンスはヘミと連絡が取れなくなる。ヘミは忽然と姿を消す。

ジョンスは、ヘミの行方と近所のビニールハウスが焼かれたかどうかを毎朝チェックする。

取り憑かれたように、早朝のビニールハウスを1つ1つ調べて走る、走る、走る、、。

青みがった空気、鳥の群れ鳴き声、打楽器の不気味な音、、素晴らしい映像です。

映画の後半約1時間は、ジョンスがヘミとビニールハウスを探すシーンに費やされます。

ジョンスは、ヘミのアパートに行くが、もちろんいない。以前の雑然とした部屋は整理整頓され、ネコのための餌やトイレの形跡もなくなっている。ヘミのアルバイト先やパントマイムの教室も訪ねるが、手がかりは何もない。ジョンスはヘミのことを何も知らなかった、、。

ジョンスはヘミのお母さんとお姉さんが経営している食堂に行く。「ジョンスなの?」と声をかけられ「なぜここに?ヘミが頼んだのね?それならヘミに伝えて、クレジットカードの負債が全て返済されない限り、うちには戻ってこられないと」お姉さんは言う。

ジョンスはそれには答えず「ヘミが7才の時、井戸に落ちたこと覚えていますか?何時間も井戸の底で泣きながら助けを待っていた、その時どんな気持ちだったかと思うと、、」と話す。けげんそうな顔で「そんなこと起きてないわ。彼女は作り話がとても上手なの。そもそも井戸なんてなかった」と。

ヘミは自由奔放そうに見えて、かわいそうな女の子だった。カード破産して家族にも見放され、信用もされず、心配もされていない。彼女はどこにもいく場所がなかった。彼女のことを心配していたのはジョンスだけだった。

ベンは「ビニールハウスをは焼いた」と言った。ジョンスは「そんなはずはない、毎朝近所のビニールハウスを1つ1つ調べているが焼かれたものはない」と言うが、「多分近すぎて気がつかないのでは。時々、物事は近すぎると見えないことがある」とベンは意味深なことを言う。

そして「ヘミは、煙のように消えてしまった。ジョンスさん、ヘミはあなたのことを特別な人だと言っていた。ただ一人信じられる人で、いつでも私の味方だと。それを聞いて私はジェラシーを感じました。今までジェラシーを感じたことは一度もないのに」と言って新しい彼女と去っていった。

終盤に向かう

ジョンスはベンのポルシェを執拗に尾行するが、ヘミの消息はわからない。

終盤、ベンのコンドに再び行くことになり、そこにはネコがいて、バスルームの女性アクセサリーの引き出しには、ヘミに最初にあげたピンクの時計が入っていた、、。

無くなっても誰も気に留めない

近すぎてわからない

メタファー? ヘミのこと? ヘミの失踪にベンが関わっているのではないかと思わせるシーンやセリフが散りばめられている、しかし真相はわからない。

ベンに「小説は進んでいますか?」と尋ねられ「この世界は謎だらけで、何も書けない」とジョンスは答えるのだ。

終盤に幾つか布石の回収はあるが、ヘミの行方については謎のまま。

ヘミのベッドで、彼女の夢を見るジョンス。

彼女の部屋で、タイプに向かって何かを書いているジョンス。カメラは、その窓からズームを引いて、ずーっと引いてソウルの街を映していく。やがてヘミの部屋の窓は分からなくなる。

そして、最後のシーンへと。

殺伐とした冬の田舎の田んぼの中で、タバコを吸いながらポルシェにもたれて待つベン。

ジョンスの軽トラが止まる、近づくベン。

「この辺りたくさんビニールハウスがありますね。ヘミも一緒と聞いていましたが、ヘミはどこ?」とベンの声が聞こえる。

車のドアを開け、出てくると同時に、ジョンスはベンをナイフで刺す、、、、

自分の車へと逃げるベンを追い、再び刺す、、。(今際いまわきわで、ベンが安堵の表情を浮かべたように私には見えた。)

ベンを抱きポルシェに入れ、石油を撒き、全ての服を脱ぎ、ベンのライターに火をつけ、そのまま車に投げ入れる。それは、ベンが言っていた、ビニールハウスを焼く時のやり方。

雪が降り始める

裸で車に戻り、車を出すジョンス。雪は激しくなり、斜めに降り続ける。

燃えるポルシェの横を通りすぎる軽トラ、、一度だけ振り向いて炎をみる、、

打楽器の音が聞こえる。。。。

まとめ

このブログを書くために、またビデオを鑑賞して、最初から最後まで、それぞれの場面、俳優、セリフ、映像、音楽、全てが素晴らしい、と言うしかないです。

3人の俳優は本当に素晴らしかったです。

ユ・アインさんは、ジョンスそのものでした。彼はインタビューで以下のように答えています。

私が演じたジョンスは特に、感情を抑えた静かな動きの中で自分をさらけ出す存在です。内的な葛藤、爆発などが起こっていることを体現することがとても大切でした。単純な外見的表現でなく、内面を通して表現をするように心がけましたし、私が持っているたくさんのものを払い落とす過程を通してジョンスに近付こうとしたと思います。

BANGER!!! 映画評論・情報サイト 2019.02.11

ジョンスを体現したユ・アインさんに心からの敬意を表します。私はジョンスがかわいそうで、感情移入しないわけにはいかなかった。

ヘミを演じたチョン・ギョンソさん(これがデビュー作)も、ヘミそのものでした。現実味がなく、華奢で、若さの持つ危うさと美しさを備えていました。ほんとに、煙のように消えてしまったのかもしれない、と思わせる儚さが漂っていました。

謎の男、ベンを演じたスティーヴン・ユァンさんも秀逸でした。彼は韓国系アメリカ人。彼の映画の韓国語は完璧だけれど、韓国生まれの人の喋る韓国語とはほんの少し違うそうです。そのバックグランドもミステリアスなベンのキャラクターに合っていた。ユァンさんは、この演技で、ロサンゼルス映画批評家協会賞をはじめ、数々の映画賞で助演男優賞を受賞。ベンの怪しさ、落ち着いていて、感じ良さそうに見えながら、いかがわしい、あのゾクゾクとする怪しさは彼にしか表現できなかったと思います。

それから映像の美しさ、何の変哲もない平凡な田舎の風景をなぜあれほど美しい映像にできるのだろう?


ヘミがどうなったのかは、誰にもわからない。見る人がそれぞれ好きに解釈するしかありません。

ベンがヘミの失踪に関係していたかどうかは分からないけれど、私はこのブログを書いているうちに、最後の場面が納得できるように思いました。ジョンスには、決着をつける必要があった、”ベンを刺して車ごと燃やす”ことが彼の決着だったのではないか?と。それが現実であろうと、彼の小説の中での出来事であろうと。

またベンについては、彼はヘミにも新しい彼女にも本当は興味がなかった、退屈しのぎに過ぎなかった。彼にあったのは空虚だけ、彼は本当にグレートハンガーだった、だから最後、刺されたことで彼の空虚は埋められ、安堵したのではないか?と。穿うがちち過ぎかもしれませんが。)

村上春樹さんの原作を再読しましたが、映画以上に難解でした。また、映画は小説とは別のもの、イ・チャンドン監督の世界だと思いました。その2時間半の世界を、わかろうが、わからなかろうが、ただ受け取ればいいのだ、と思いました。

ベンが言ったように、正しいもまちがいもない、ただ受け入れるだけ(笑)。

いつまでも心が揺さぶられ続ける、そんな映画に出会えたこと、この映画を届けてくださった全ての皆様に感謝と敬意を表します。

お読みいただきありがとうございました。

Movie
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